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陰口・悪口は個人の問題じゃない!職場に何が起きているのか?

陰口・悪口は個人の問題じゃない!職場に何が起きているのか?

陰口や悪口は聞いていて心地よいものではありません。まして自分がそのターゲットにされていれば、とても苦しい思いをします。

世間には「陰口・悪口など気にするな!」「弱い人間の負け犬の遠吠えだから無視しろ」など、いわば「個人の問題」として陰口・悪口の問題を捉える傾向があるようですが、果たして本当にそうなのでしょうか?

今回は、陰口・悪口を組織に原因を持つ現象として捉え、職場に何が起きているのかについて分析していきます。

陰口・悪口は個人の問題じゃない!

陰口や悪口に悩まされる社会人は大勢います。むしろ、これらの問題と一度も関わったことが無いという人の方が少数でしょう。

職場でのちょっとした陰口、終業後の飲み会での悪口大会、最近ではメールやLINEグループでのさらし上げなど、ありとあらゆる場所に陰口や悪口の機会があります。

自分が陰口のやり玉に挙げられるのはとても苦痛です。そんな事態にならないように、派閥のボスに取り入ってみたり、本当は帰りたくても飲み会に出席したりと、陰口・悪口にまつわるストレスにはキリがありません。

陰口が具体的に語られる場面では必ずターゲットとされた人物の名前が挙がるため、つい陰口・悪口は個人の問題であると感じてしまいます。

「Aさんの性格に問題があるから陰口を叩かれるんだ」という話になり、うわさを聞いた当のAさん自身も「私の性格を直して適応しないと」と悩んでしまったりします。

あるいは、陰口を叩く側の問題であると考えられたりすることもあるでしょう。「Bさんに目を付けられるとあること無いこと言いふらされるからなぁ」といった具合に、「ゴシップ好きのBさん」という形で個人の問題として取り扱われます。

しかしながら、陰口・悪口が横行している職場には往々にして構造的な原因が存在するものです。上手く機能していない組織の矛盾が「陰口・悪口」という形で表出化し、何も悪くないAさんを苦しめ、Bさんをゴシップに走らせているわけです。

したがって、陰口・悪口を横行させている構造的な原因を突き止め、解消しない限り、この問題が収束することはありません。Aさんが職場を去ったとしても新たなターゲットが選ばれるだけですし、Bさんに注意しても別の誰かが陰口を言いふらし始めます。

個々の職場によってどのような原因が陰口・悪口の横行を助長しているかは異なりますが、今回は典型的な2つの原因について分析していきましょう。

もしあなたが陰口・悪口に悩まされているのであれば、「自分が悪いのかもしれない」「悪口を言ってくるアイツがおかしいんだ」といった感情をいったん脇に置いて、「自分の職場はどっちだろうか」と考えながら読んでみてください。

相互不信克服のための陰口・悪口

会社とは、これまで全く関わりの無かった人間同士が集まって共同の仕事を成し遂げなければいけない場所です。職場に応じて強弱の差はありますが、その仕事のパフォーマンスによって個々人が評価され、ある人は華々しい出世を果たし、別の人はそれを見送ります。

組織としての営利企業の際立った特徴の1つは、赤の他人同士が利害関係の網の目に埋め込まれていることです。相手が信頼できるか否か分からないのに共同の仕事を行わなければいけません。自分が間違った人間を信じて出し抜かれてしまったら、その後のキャリアに傷がつくかもしれません。会社においてはどこまで出世できるかが、その人およびその家族の収入の水準を決定しますから、家族の命運も「こいつは信じられるのか」という自分の判断にかかっています。

お互いがお互いに対して「こいつは信じられるのか」と疑っている相互不信の状態では、とても仕事などしていられません。この相互不信を解消する方法はいくつかありますが、日本企業で主に用いられてきた方法が「コミットメント関係の形成」です。「グループの形成」や「派閥の形成」と考えると分かりやすいでしょう。

このコミットメント関係において、結束を確かめるために必要なのが陰口・悪口です。同じグループに心から忠誠を誓っていることを証明するために、他のグループの人間について言われた陰口に賛同したり、時に自ら積極的に陰口を叩くことを求められます。

陰口・悪口は、いわば「踏み絵」です。誰かについて悪口を言っている本人の関心は悪口のターゲットにあるわけではありません。グループに対する忠誠を表明し、グループの中で主導的なポジションを獲得することに関心があるだけですから、悪口の対象は同じグループの人間でなければ誰でも構いません。個人的な恨みが無くとも、「今日たまたますれ違ったCさんなんだけどさぁ・・・」といった具合に陰口の対象にします。

したがって、もしあなたがこの手の陰口・悪口にさらされていても、思い悩む道理はありません。「たまたま目についたから」「何となく思い出したから」「新人だから」などといった全く愚にもつかない理由で「話しのダシ」に使われているだけです。当然、あなたの性格や行動に問題があるわけでもありません。嵐が過ぎれば、また別の誰かにターゲットが移っていくでしょう。

ただし、コミットメント関係が強くなってくると、その職場は全体として居心地の悪いものになっていきます。いわゆる「風通しの悪い職場」がこれに当たります。

強烈なコミットメント関係はメンバーの行動原理を強く拘束します。もはや彼らは会社というよりもコミットメント関係のために行動するようになり、非合理的な縄張り意識を持つようになるでしょう。仕事は縦割りになり、同じグループのメンバーのミスを隠蔽しようと画策します。重要な意思決定は常に「根回し」という非公式的な手段で行われるようになり、営利企業としての冷静で合理的な計算よりも、政治力がモノを言うようになります。

経営者や管理職にとっては、自分の職場がこのような事態に陥る前にいかに対処するかが課題となります。これについては、また別の記事で触れましょう。

いじめの手段としての陰口・悪口

相互不信を克服するために言われる陰口・悪口は、その目的自体は「安心して仕事をするため」であり、課題の解決のための手段として行われるのでした。

これに対して、いじめやハラスメントの手段として陰口・悪口が言われる場合があります。

厚生労働省が発表している「パワハラの6類型」で言えば「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」などに該当します。

いじめ問題は、主に社会学において研究の蓄積がある組織的・集団的な現象です。「他人をいじめずにはいられない攻撃的な人」というのはそうそう居るものではなく、あなたや私のようなごく普通の人間が、ある特殊な集団状況に置かれることによって加害者になり、あるいは被害者になります。

いじめ・ハラスメントを行う人間は、組織の構造的要因によって増幅された様々な動機によっていじめを実行します。

しかし、いきなり暴力などの派手な行為に及ぶことは少なく、通常はちょっとした陰口・悪口のような露見しにくい行為から始まります。

「組織の構造上の問題である」という点では「相互不信克服のための陰口・悪口」と同じですが、陰口・悪口の目的が「いじめのターゲットに対する嗜虐、あるいはターゲットの(精神的)破壊」であるという点が大きく異なります。

もしあなたがこのタイプの陰口・悪口のターゲットにされている場合、状況を放置していても自然解消する可能性は残念ながら低いと言わざるを得ません。陰口・悪口を言っている人間の関心は「あなたを苦しめること」にあるからです。

かと言って下手にやり返そうとしたり、我慢して平気そうな顔をしたりすると、いじめがエスカレートして状況が悪化する危険さえあります。自分一人で解決しようとせず、早めに信頼できる人物に相談しましょう。

そして、経営者や管理職は職場のいじめ問題を予防し、あるいは早期発見するための仕組みを構築することが、人材管理における重要な経営課題であることを認識しなければなりません。

参考文献

内藤 朝雄(2001)「いじめの社会理論」柏書房
山岸 俊男(1998)「信頼の構造」東京大学出版会


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