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部下を潰す上司の心理

部下を潰す上司の心理

部下を潰す上司が居ると、ターゲットにされた部下は非常に辛い思いをして、うつ病などの精神疾患を発症したり、早期に転職をせざるを得なくなったりします。

また、部下を潰す上司は経営課題でもあります。組織の効率性を阻害し、様々なコストとリスクをもたらします。

部下を潰す上司は、彼自身の性格の問題なのでしょうか。ここでは、部下を潰す上司の心理を理解するひとつの方法として、自己肯定感に着目した分析を行います。

自分の存在を肯定できなくなった人間

長期間にわたって慢性的な高ストレス状態にさらされ、不満や不安、嫉妬、怒り、無能感、屈辱感などの感情を耐えて生活することを強いられると、人は自分自身の存在を肯定できなくなる傾向があります。

自己肯定感の欠如は、典型的には「自分が何のために生きているのか分からない」「この世の中には良いことより悪いことの方が多い」「自分には生きるに値する価値がない」などの思考として意識にのぼり、重く苦しい感情として経験されます。

きっかけとなったストレスには、何らかの明確な理由があったはずです。Aさんに理不尽に怒られるとか、Bさんという嫌な人がいるとか、具体的に表現できる何らかの原因があったはずで、部署異動なり転職なりで原因が取り除かれれば、通常はストレスも止みます。

しかし、ストレスの程度が強かったり、長期間に及んでストレスにさらされたりすることにより、ダメージが自己肯定感の欠如にまで及ぶと、もはや具体的な原因を取り除いてもすぐに回復できるものではなくなります。傷ついた自己認識や世界に対する否定感は、本人を苦しめ続けます。

さて、こうした自己肯定感の欠如した人間が会社組織の中で権力を持つ上司になると、何が起きるのでしょうか。

存在の反響板としての部下

会社組織の中で出世すると、会社全体として効率良く業務を遂行するために、上司となる人間には一定の「権力」が与えられます。この「権力」は、その権力のもとに居る部下に対して仕事の指図をしたり、有効な方針を定めたりする裁量のことですから、本来は組織論的な機能概念に過ぎません。しかし、権力は簡単に乱用され、部下の人格に対して特定の方向に圧力を加える道具として利用されます。

長期にわたる苦痛に耐える中で自己肯定感が傷ついた人間が上司となり、会社に与えられた権力を使って部下の運命を左右できるような環境に置かれたとき、上司は自分の傷を癒やすために行動したい欲求に駆られます。

傷ついた自己肯定感を癒やす方法のひとつに、他者を「反響板」として用いる方法があります。自分の言動に対する他者の反応の中に自分の有能さやパワーをみいだし、それを自分を肯定する根拠にするわけです。

他者反響板戦略を使って自己肯定感を癒そうとする上司は、組織運営の効率性の必要性を超えて、積極的に部下に干渉しようとします。部下を思いのままにコントロールし、期待したとおりの反応を返す「鏡のような」反響板へと加工したい欲求に駆られているのです。

エスカレートする攻撃的干渉

部下に干渉する際、その干渉のあり方は理不尽で場当たり的なものであればあるほど、自分のパワーを確認するためには好都合です。合理的な指示ばかりでなく、その時々の自分の気分による八つ当たりにさえ、部下が自分の顔色を伺い、唯々諾々と従ってくれる様子は、上司にとってこの上ない快感と癒やしになります。したがって、他者反響板戦略をとる上司の、部下に対する接し方は、徐々に横暴なものへとエスカレートしがちです。

ただし、エスカレートし過ぎて「上司」としての立場を失ってしまっては元も子もないので、利害計算によって「横暴」はコントロールされます。「バレない程度に」「問題にならない程度に」「違法にならない程度に」計算しながらに干渉するわけです。

しかし、反響板への加工圧力を受ける部下にとってはたまったものではありません。部下が独立した一個人として人格を持っていることや、有能さを発揮することは、他者反響板戦略をとる上司にとっては邪魔でしかありません。部下が「上司に認めてもらおう」と努力し、個性や有能さを発揮すればするほど、事態は悪化していきます。

部下がそのような個人的な「価値」を発揮してしまうと、反響板を失った上司は自分のパワーを感じることができなくなり、「お前は無能だ」「お前には価値がない」といった非難を受けているかのような錯覚をし、強い被害感情にさいなまれます。そして、原因となった部下に対する憎悪から、「教育」や「指導」という名の攻撃的干渉はエスカレートするのです。

他者に干渉する動機と手段を併せ持つ上司からの攻撃を、部下の側から止めるのは困難です。一方的で止むことのない干渉を受けた部下は、限界を超えたところで潰れるか、早々に会社を去るか、どちらかに至ることが多いでしょう。

経営課題としての部下を潰す上司

もしあなたが上記のような上司のもとで苦しんでいるのであれば、耐えるにせよ転職するにせよ、「自分が未熟だから上司とうまくいかないんだ」などと考えることの無いようにしましょう。

あなたが苦しんでいる現象の原因は、上司の個人的な自己肯定感の欠如と、他者への攻撃的干渉を可能にする会社組織の権力構造の弊害、そして権力の濫用を防止する統治機構の欠如にあるのです。あなたがどんな人間であろうと、どんな価値観を持とうと、それは他人があなたに攻撃的に干渉していい理由にはなりません。

一方で、企業経営者はこうした「部下を潰す上司」を経営課題として捉え、適切に対処する必要があります。

高い離職率と増加する採用・教育コスト、社内においてハラスメントが横行することによる効率性の低下と訴訟リスクなど、「部下を潰す上司」は様々なコストとリスクの原因になります。

部下を潰す上司の性格や価値観を変えることはできなくても、彼による他者への攻撃を抑制することは、組織的な取り組みによって比較的スピーディに実現することができます。

参考文献

内藤 朝雄(2001)「いじめの社会理論」柏書房
山岸 俊男(1998)「信頼の構造」東京大学出版会
A.O.ハーシュマン(矢野 修一訳)(2005)「離脱・発言・忠誠」ミネルヴァ書房


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