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会社組織にハラスメントと非効率が蔓延する理由

会社組織にハラスメントと非効率が蔓延する理由

ある程度会社が大きくなると、ハラスメントの問題は必ず生じます。

ハラスメントの問題は労働者保護やブラック企業問題の文脈で語られることが多いですが、実はハラスメントの発生自体が必然的に生産性の低下をもたらすため、その本質から言えば利益偏重のブラック企業こそ真剣に取り組むべき問題であるとさえ言えるのです。

なぜ会社組織にはハラスメントが生じてしまうのか、そして、なぜハラスメントには非効率が伴うのか。このメカニズムについて、詳しく見ていきましょう。

権力配分と効率的な分業システム

会社組織は経営者を頂点としてピラミッド型に権力を配分した分業システムです。

ここで言う「権力」というのは、個々の従業員に割り当てられた裁量や職権のことで、良くもなく悪くもないニュートラルな概念です。

営利企業に求められるのは、何よりもまず効率的に業務を処理できる組織構造です。仮に完全にフラットな権力配分の組織を考えると、何をするにも全員に報告し、全員の同意を確認しなければならないため、とても非効率です。

権力配分に高低を付けてピラミッド型の構造にすれば、下位の者は直近上位の者にのみ指示を仰ぎ、報告すれば良くなります。つまり、上位の者の能力の高低に関わらず、ピラミッド型の構造自体がコミュニケーションコストを節約する効果を持っているのです。

もちろん、ピラミッド型組織が持つ効率性はコミュニケーションコスト以外の面でも様々な根拠があります。しかし、上記の説明だけでも「高度な分業による効率性を発揮するシステム」として、権力配分に高低をつけるピラミッド型システムが有効であることは納得して頂けるでしょう。

ハラスメントに転用される権力

会社組織は効率性を追求するため、ピラミッド型に権力を配分した組織を作るのでした。

しかし、本来は業務効率のための便宜に過ぎなかったはずの権力関係は、いともたやすくハラスメント(harassment)を生み出す構造に転化します。

現代の会社員は一般に抑圧されたリアリティを生きています。この抑圧は「明日のプレゼンが不安」といったような種類の抑圧とは次元を異にしています。ここで言う抑圧とは、全人格的な虚無の感覚、あるいは「現実の現実感覚」を蝕むような感覚を伴う抑圧です。

この種の抑圧が生じるメカニズムは、社会学や社会心理学、産業心理学、文明論、政治哲学など、様々な文脈から説明することができますので、詳しくは別の記事でご紹介しましょう。

さて、抑圧されたリアリティを生きている会社員は、意識的であるか無意識的であるかを問わず、「他社を人格的に支配することによって得られる全能感」によって、その苦しみを癒やすように方向づけされやすい状況にあります。この全能感を求める傾向が強い個人や集団と権力が結びついたとき、会社組織にハラスメントが生じることになります。

全能感を得るためには、上位の者の命令によって下位の者が苦しむ必要があります。上位の者と同じ人格を有しており、通常では言いなりになるはずもない他者が自分に屈服し、苦悶の表情を浮かべるからこそ、それを具現してみせた自分の全能感を信じることができるからです。したがって、全能感を求める上位者は、権力を使って下位の者を苦しめること、すなわちハラスメントを行うようになるのです。

ハラスメントに必然的に伴う非効率

権力関係を流用して全能感を得ようと考えた場合、もっとも単純なのは「あえて非効率な命令をする」ことです。過度の量の仕事を特定の個人だけに割り振ったり、未経験で失敗のリスクが高い業務を丸投げしたりと、権力に基づく裁量を使えばいくらでも「非効率な命令」を下すチャンスはあります。業務の量と質を過剰なものにするのとは反対に、過度に単純な業務を与えることで心理的苦痛を与える例も見られます。ブラック企業批判の文脈で有名になったアリさんマーク引越社における「シュレッダー係」の問題も、この種のハラスメントであると言えます。

このように、他者支配による全能感実現のために権力が利用されるようになると、命令自体が非効率的なものになります。その一方で、命令に従う側による反撃として非効率が生じることも一般的に見られる現象です。期限ギリギリまで業務を遅延させるスローダウンや、交通費や交際費のごく少額な着服、重要だがすぐには問題にならない事項の隠匿など、様々なものが考えられます。下位の者による反撃は総じて受け身的ではあるものの、確実に非効率を生じます。

以上のように、権力がハラスメントに流用されると、命令自体が非効率なものになり、更にその遂行も非効率なものになるのです。

ハラスメント防止は労働者保護の文脈で語られることが多く、確かにそれはそれで重要なことです。しかし、会社経営の観点から考えても、権力の流用によるハラスメントの蔓延は、直接的に生産性を損なうため、重要な経営課題として真剣に管理(マネジメント)しなければならないポイントなのです。

参考文献

内藤 朝雄(2001)「いじめの社会理論」柏書房


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